人間国宝の器がズラリと並ぶ
12席のカウンター立ち呑み

立ち呑みといえば、その立ち寄りやすさや、一品一品のコスパも大事な基準になるもの。「立ち呑み 三ぶん」も、その屋号を「3分=スリーミニッツ」に由来しているくらい、手軽さやお値打ち感を売りにしているものの、ちょっとこれまでの立ち呑みとはワケがちがう。

魚はすべて天然もので、工夫を凝らした割烹料理に仕立てられていて、かといって価格もリーズナブル。

「隣の『三分亭』も同じグループで、そちらは椅子席でゆったりお食事いただける割烹酒亭なんですが、中のキッチンは繋がっているので、こういう料理もお出しできるんです」

そう教えてくれたのが、店主の疋田さん。カウンターに立つ疋田さんの後ろには、器好きたちをも唸らせる器や酒器が並ぶ。

「人間国宝や北大路魯山人などの器も置いていますし、立ち呑みではあるんですけど、料理と同じくらい多彩な器も楽しんでほしいなと思います」

その柔らかさに驚く
「牛タンカツ」のトマトソース

そんな「三ぶん」には、黒板に書かれたその日の旬なお魚料理から、ついついお酒が進んでしまう珍味、こだわりのお肉料理までさまざまなメニューが並ぶが、ぜひ名物の「牛タンカツ」を頼みたい。

「タン先を長時間煮込んで、柔らかく歯応えが良くなった状態からカツにしています。そこに甘酢をサッとかけて提供している人気メニューですね。やはりこれも隣の姉妹店で牛タンの炭火焼きを出していたり、立ち呑みのほうでも牛タンのおでんを出しているので、まるまる1本仕入れているからこそお得に提供できているのかなと思います」

ひと口いただくと、驚くほどジューシーで柔らかい食感と、牛タンらしい程よい脂の旨みが広がる。

世界規模で人気が高まり、仕入れ価格高騰がニュースになることすらある「牛タン」だが、「あくまでもうちは立ち呑みですから」と、良心的な価格設定が嬉しい。

丁寧な仕込みの妙を体験しに、ぜひ「三ぶん」を訪れてみてほしい。

マルエフは
食材を支えてくれるビール

映画や劇場が始まるまでの時間や、鑑賞を終えたあとには「三ぶん」で飲む生ビールがとにかくうまい。

「マルエフは、あっさりしているんだけどちゃんと食事を支えてくれるビールだと思っています。力強すぎるような設定じゃなくて、ビール本来の炭酸、酸味、甘み、コク、のバランスがとてもいいですよね」

と疋田さん。もともと日本酒を専門としていることもあり、マルエフの味わいの印象を詳しく教えてくれる。

「うちは1年中おでんも出しているんですが、関東では珍しいアゴ出汁をベースにしたあっさり系の薄味なんですよ。そこに仙台牛タンで添えられてくるような辛味噌をつけていただいてもらうことが多いんですが、マルエフはこういうあっさり系のおでんとも相性がいいと思います」

ふらっとのれんをくぐった立ち呑みで、こだわりの料理と、こだわりの生ビール。たまらない。

エンタメ溢れる日比谷で過ごす1日のスケジュールを、「三ぶん」の営業時間に合わせて組むのも、じつに多幸感があるのではないだろうか。

「実際、映画を1本見てから立ち寄って一杯飲んで、また映画を見にいって、終わったらまた立ち寄っていただいて一杯飲んで、というようなお客様もいらっしゃいます。このあたりは座ってゆっくりお酒を楽しんでいただくお店は多いと思うんですが、我々のような立ち呑みが少ないので、重宝いただいてます」

たしかに、週末のおでかけのとき、あまり詳しくない街で “ちょっとだけ時間がつぶせるお店” を知っていると、安心感も充実感も大きく変わる。

「立ち呑みですと、不思議とお客様同士も一体感が出ると言いますか、ゆずりあったり、初めての方同士でも仲良く会話を楽しまれている印象です。そういうハブのようなスポットとして使っていただくのはありがたいですね」

高級なブティックやレストランがひしめくミッドタウン日比谷で、立ち呑み。取材前はどんな感じなんだろうと不安もあったけど、行ってみて食べてみて飲んでみて、納得。

このお店は、覚えておいて絶対に損はない。