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2022/11/21
知らない人生はもったいない「マルエフめし」
今回、“マルエフめし” を求めて訪れたのは、
大阪・梅田の「新梅田食道街」にある
立ち飲みスタイルの老舗「北京(ぺきん)」。
「北京」は、1950年に開業した「新梅田食道街」の
立ち上げ期からあるお店のひとつで、
初代店主が「新梅田食道街」の名付け親でもあるという。
いろんなものを食べさせ、飲ませるお店が、
狭い通路に並んでいるからと、
本来の「食堂」という漢字ではなく
「食道」という “道” にこだわった。
JR高架下の独特な雰囲気と、
頭上に響くガタンゴトンという
電車の音ですら酒の肴になる、
そんな北京へ足を運んだ。
店内に入ると、まるでヨーロッパのBARのようにちょっと背の高いカウンターが出迎えてくれる。仲間だけが集まる秘密部屋のような空間に、ついワクワクする。ところで、なぜ北京?
「この白黒の写真が先代で、私の主人の父です。当時国鉄に勤めていて仕事で北京に行っていたらしいんですが、そこで日本人だからと差別されることもなく、とても親切にしてもらったみたいで。それが嬉しくて日本でお店をやるときに屋号にしたみたいですよ。紛らわしいし、私は全然ピンと来てないですけど(笑)」
そう笑うのが、店主の斎木澄子さん。ずっとお店に立っていたご主人が数年前に病気で他界され、それ以来、先代とご主人が繋いできたバトンを引き継いでる。
「義父も主人も本当にお酒が大好きでした。私はほとんど飲まないですし、お酒の味も分からないんですけど、常連さんに助けられながらなんとかやっています」
店名の由来が聞けたところで、おそらく中華料理が出てくるわけではない、ということにはお気づきかと思う。
ここ北京の名物は、なんと「エッグ」だ。
島根の出雲布志名焼の流れを汲む窯元「湯町窯」のエッグベーカーに入っているのは、紛ごうことなき2つの玉子と、塩のみ。
そこに絶妙な加減で火を通していく。究極にシンプルで見た目には愛嬌があり、だからこそ、その奥深さに触れたくなってしまうのが酒呑みの習性かもしれない。
「どうぞ、すぐかき混ぜて召し上がってくださいね」
そう、このエッグは、受け取ってからかき混ぜるまでがセット。
少し焦げのある白身を、まだ半熟の黄身と一緒に混ぜていく。余熱で固まってしまう前のちょうどいい柔らかさを残した状態でいただくのが基本だ。ただ、つい話に夢中になっている間に火が通り過ぎて炒りたまごのようになってしまったものも、それはそれでうまい。
「もう本当にこれだけなんですけど、みなさん、なんでたまごがこんなにおいしいの? と驚かれていきます。なんででしょうね(笑)。湯町窯さんのエッグベーカーのおかげでもありますし、あとはこの立ち飲みの雰囲気でしょうね。自宅で同じ条件で作ってみたという常連さんもいますが、なぜか同じ味にならなかった! とおっしゃってました」
北京はもともと、冒頭で紹介した先代が四斗樽と呼ばれる大きい酒樽が置かれた民芸風の出立ちから始まり、お酒好きのDNAを受けついだ2代目が、世界の洋酒が飲めるスタンドバーへと進化させた。
その長い歴史のなかで「アサヒさんとは切っても切れない関係だった」という。今でもいろいろなお酒を置いているものの、生ビールは「マルエフ」だ。
「主人もよく、常連さんと吹田のほうの工場見学に行ってましたね。工場見学と言ってもみんなお酒が大好きなので、きっとアサヒさんを困らせるくらい飲んでいたと思うんですが……(笑)。先日、アサヒビールさんに貢献した人たちの名前が入る記念碑にも入れていただきました。私は決して詳しくないけれど、常連さんが『ここの生ビールはおいしい』って言ってくれますし、なんだか歴史とご縁を感じますね」
長く飲食店で愛されてきたぬくもりが溢れる「マルエフ」と、塩だけのシンプルな味つけがたまらない名物「エッグ」。
お酒の席で他になにがいるんだろう……っていうくらい無駄を削ぎ落とした組み合わせだけど、きっと通いたくなるのはこういうお店だ。
カウンター越しのやりとりや、常連さんたちから聞こえてくるなにげない話も楽しくて、何より居心地がいい。
「とりあえず顔出してみるか」と思える空間は、そうそう出会えるものじゃない。
おつまみはだいたい200〜400円。
1000円だけ握りしめて、サクッと一杯なんていうのもいい。「新梅田食道街」の周りの店舗とハシゴしたっていい。
「主人も、よくちょっと休憩してくるって言いながら、なかなか帰ってこないと思ったら他のお店で飲んでましたよ」
(笑)。
マルエフとエッグと、そこにいる人たちのエピソードでついついお酒が進む名店。きっと、北京を知らない人生はもったいない。
北京
住所:大阪府大阪市北区角田町9-25 新梅田食道街 1F
TEL:06-6311-2369
営業時間:17:00〜22:30
定休日:土曜日、日曜日、祝祭日