なるほど似ているけれど
「スピリッツ+ホワイト・キュラソー
+柑橘系のジュース」
カクテル界の名門家族
「スピリッツ+ホワイト・キュラソー+柑橘系のジュース」というのは、カクテル界のなかでも有数の名門家族。
ブランデーとホワイト・キュラソー、レモンジュースをあわせた〈サイドカー〉や、ジンとホワイト・キュラソー、レモンジュースをあわせた〈ホワイト・レディ〉、テキーラとホワイト・キュラソー、ライムジュースをあわせた〈マルガリータ〉は、国内のカクテルランキングでは常に上位をキープするスタンダードとして知られています。
一家に属するバラライカ
そんな一家に属するカクテルのひとつに、ウオッカとホワイト・キュラソー、レモンジュースをあわせた〈バラライカ〉があります。
バラライカというのは、ギターや三味線に似たロシアの民族楽器のひとつで、細長いネックと、小さな響孔があいている三角形の共鳴胴のうえに三本の弦が張ってあるというもの。出せる音の高さによって六通りの大きさがあるそうなのですが、この三角形の共鳴胴を上に、ネックを下に向けて眺めるといかにもカクテル・グラスそっくりなものですから、その形の類似性から、ウオッカを使った〈ホワイト・レディ〉や〈マルガリータ〉のバリエーションにこの名がついたのではないかといわれています。
もっとも、グラスの形が似ているだけなら、この一家の一員となるには役不足。実際、バラライカの形に似た鋭角的なカクテル・グラスは別名をマティニ・グラスというくらいですから、本当にそれだけの理由しかなかったのであれば、〈ウオッカ・マティニ〉の別名にこそふさわしかったはずです。
が、調べてみるとやはりそれ以外の理由もあったようで。
アカデミー賞の五部門を制した映画の封切り
この〈バラライカ〉、初出は1965年に改版された『ザ・サヴォイ・カクテル・ブック』であったそうなのですが、この年は、デイヴィッド・リーンが監督をつとめたある有名な映画が封切りされた年でもありました。
『ドクトル・ジバゴ』です。
原作者であるロシアの文豪パステルナークは、この作品で1958年のノーベル文学賞に選ばれながら、当時の政治事情で辞退せざるをえなかったという逸話を残しているほどで、これがいかに当時話題になったかというのは、アカデミー賞の五部門を制したことからもうかがえるというもの。
そんな話題作のなかで、バラライカという楽器は、音楽に、そして映像にと、八面六臂の活躍をします。おそらくはジバゴが愛したふたりの女性の影をも薄くさせるほど・・・。
恋人を亡くしたという〈マルガリータ〉の悲恋譚ほど知られた話ではありませんが、〈バラライカ〉に色気のなさを感じたら「ラーラのテーマ」を思い出すのがよいでしょう。