今年のテーマは、"香り"。
「Omakaseコンテスト」は、ゲストに扮するジャッジがバーに入ってくるシーンから始まる。制限時間は15分。その間に3人のゲストへのサービスを終えなくてはならない。使えるのは、「フロム・ザ・バレル」「カフェグレーン」「カフェモルト」「カフェジン」「カフェウオッカ」の5つの商品と、会場のバーにあらかじめ用意されている副材料のみ。ホームメイドのビターやシロップなどは持ち込むことができない。グラス類もあらかじめ用意されたものを使う。これが例年の基本ルールだ。
基本ルールに加えて、実は「ニッカ・パーフェクト・サーヴ」には、その年ごとのテーマに沿った課題がある。バーテンダーはオンラインで予選出場の申し込みをする際、特定の課題について自分の考えやアイデアを記述しなくてはならない。例えば、昨年のテーマは“かくし味”。「フロム・ザ・バレル」に極少量何かをプラスして、味わいを引き立たせるには何を使うか?というものだった。
今年のテーマは“香り”。これは、ニッカのアンバサダーとして活躍するスタニスラヴ・ヴァドルナが、日本で香道に出逢い、香りの奥深さに感銘を受けたことに端を発する。各地の予選では、参加者全員がスタニスラヴによるマスタークラスを受講し、聞香(もんこう)の方法や香りの表現について学んでいる。日頃使い慣れている商品でも、香りを軸にして改めて向き合うと、新たな発見があったに違いない。
具体的には、対象となる5つの商品から1つを選び、味覚だけでなく嗅覚にも訴える“香りの体験”を提供する。そのために必要なツールや材料は、各自事前に準備してくることになっている。例えば、「フロム・ザ・バレル」があわせ持つ、フルーティーさとスパイシーさに着目し、オレンジとシナモンを添えて香りを交互に嗅ぎながら楽しむスタイル。「カフェジン」の香りと相乗するハーブやスパイスを選び、その香り成分をアルコールで抽出したものをグラスの外側にスプレー、新たな香りのかけあわせを試す方法。蓋付きのグラスに「カフェグレーン」を注ぎ、香りのよいリンゴの木のチップで焚いたスモークを閉じ込めたものなど。ニッカのラインアップは個性豊か。“香りの体験”の可能性は無限大だ。
楫が“香りの体験”をジャッジする傍ら、チャールズとジムは、自由奔放にユニークなゲストを演じ、ファイナリスト達を翻弄する。
『考古学を専攻している学生で、採掘はとても面白い。土の香りがするようなカクテルをつくって。』
『オリンピックスタジアムを見学に行ってきたスポーツファン。金メダルのようなカクテルを。』
『実は私はニッカの樽職人。ウッディーなカクテルを飲んでみたい。』
二人の伝説のバーテンダーを目の前に、平常心でサービスするのは難しい。あくまでも二人は自分のバーを訪れてきた普通のゲストであり、カクテルのつくり方や材料について質問されても、必要以上に動揺してはいけない。いかに平常心を保ち、目の前のゲストに集中できるかがポイントとなる。
優勝は、フランス代表のギュイヨーム。
優勝したギュイヨーム
2018年の頂点に立ったのは、フランス代表のギュイヨーム。彼のカクテルは、いずれも繊細でエレガント。午前の「ブールヴァルディエ」もバランスのとれた味わいで、「ニッカ デイズ」の特長をうまくとらえていた。しかし、テクニック以上に印象的だったのは、彼の放つ独特な空気感。ギュイヨームがカウンターに入ったとたん不思議な静寂があたりを包み、ゲストと落ち着いた会話が展開された。流れるような所作に、あくまでもゲストが主役のサービス。彼のスタイルは一朝一夕にできたものではなく、日々の仕事の積み重ねによるものだろう。
準優勝は、オーストリア代表の代表のフェレンス。ドイツとオーストリア合同で開催された予選を制し、オーストリアのバーテンダーとして初めて決勝に進出した。彼もまた、的確な技術をもち、目の前のゲストに集中するサービスで、ジャッジから高い評価を得た。
ギュイヨーム(左)と準優勝のフェレンス(右)
二人は2019年の6月に、共に日本に招待される。約1週間の滞在中、余市&宮城峡蒸溜所でニッカのウイスキーづくりについてさらに学ぶほか、札幌や仙台、東京のバーを訪問したり、様々な日本の食も体験する。旬のフルーツをどのようなカクテルに活かすのか、日本ならではの調味料の使い方、季節のあしらい、きめ細かなサービスなど。それら全ては彼らの五感を刺激し、バーテンダーとしての幅をさらに広げるための貴重な財産となるだろう。
「ニッカ・パーフェクト・サーヴ」の真髄とは?
今回から、大会のロゴが刷新された。新しいロゴは、ドアをデザインしたもの。“パーフェクト・サーヴとは、お客様がバーのドアを開けた瞬間から始まる”という考えを象徴している。「ニッカ・パーフェクト・サーヴ」は、バーテンダーが派手なパフォーマンスをアピールするための舞台ではない。また、カクテルの完成度だけを追求するコンペティションでもない。あくまでも主役はゲスト。バーテンダーの役割は、ゲストの気持ちに寄り添い、おいしいドリンクと心地よい空間や時間を提供すること。それを実現するために日々精進する人だけが賞賛される。バーテンダーとして長いキャリアと実績を持つチャールズやジムでさえも、さらなる高みを求めている。バーテンダーに“完成”はないのかもしれない。