制約と自由の間で 〜 世界のどこでも通用するバーテンダーとは。
「Omakaseコンテスト」では、実際のバー同様の設定でファイナリストがゲスト3名を迎える。ドリンクを提供する上で使える商品は5種。あらかじめファイナリストに伝えられていた 「フロム・ザ・バレル」「ニッカ カフェグレーン」「ニッカ カフェモルト」に、「ニッカ カフェジン」「ニッカ カフェウオッカ」が加わった。副材料は、昨年からホームメイドのビターやシロップなどの持ち込みは不可となり、使えるのは会場のバーにあるベーシックな材料だけとなっている。グラス類もあらかじめ用意されたものの中から選ぶ。ファイナリストたちにとっては、日頃馴れ親しんだ自分のバーを離れ、いわばアウェイの状態だ。
さらに、今回はいつもと少しルールが異なる。ロジェリオと楫には今まで同様に「Omakaseカクテル」をサーヴする一方、デイヴには、「フロム・ザ・バレル」にプラスアルファ、言ってみれば、“かくし味”を効かせた究極のシンプルカクテルを出さなければならない。この“かくし味”は、ファイナリストが予め準備し会場に持ち込める唯一の副材料。多くのヨーロッパのバーテンダーにとって、「フロム・ザ・バレル」はカクテルをつくる上で欠かせないアイテムのひとつとなっているが、ファイナリストたちは改めてウイスキーそのものの味と向き合い、五感を研ぎ澄ませ、考えぬいた末に渾身の1滴を用意して来ている。
各自持ち時間は1人15分。ファイナリストとゲストに扮する3名のジャッジのやりとりが続く。
『ニューヨークマラソンに挑戦するためトレーニングしているが、なかなか成果が上がらない。何か元気になるカクテルをつくって』
『クリスマスツリーみたいなカクテルをお願い』
『ニューヨークのタクシーのような鮮やかな黄色のカクテルを』
ロジェリオは、日々何よりもゲストとのコミュニケーションを大切にしている百戦練磨の現役バーテンダーだけに、出されたカクテルに対しさらに熱心に質問をする。ファイナリストたちには手ごわいジャッジだったかもしれない。また、「フロム・ザ・バレル」に加える“かくし味”は、日本酒をベースにしたり、醤油を使ったり、また、ベーコンをスピリッツにインフューズしたもの、香り高い紅茶を使ったものと様々。デイヴとの会話の中で、それがどうやってつくられているか、どのようにウイスキーの味わいとなじむか、それともアクセントになるかを、さりげなく説明しなくてはならない。制約がありながらも、自由。そんな状況下で、ファイナリストたちは“一期一会”のサーヴに真摯に取り組んだ。
今回の大会は例年以上にファイナリストの実力が僅差。ジャッジも含め、審査の集計結果が出るまで、誰が勝つか分からなかった。
優勝は、ギリシャ代表のヤコブ。
そして、優勝の栄冠を手にしたのは、ギリシャ代表のヤコブ。終始やさしい微笑を絶やさず、控えめなコミュニケーションが印象的だった彼は、「Omakaseコンテスト」で「ニッカ カフェウオッカ」を使ったカクテルをつくった数少ないファイナリストの1人。クラッシュしたジンジャーとパイナップルを使ったショートカクテルは、鮮やかな色合いもさることながら、「ニッカ カフェウオッカ」のまろやかさ、“ミルキー”と表現されることもある、ベーススピリッツのなめらかな口当たりを見事に活かしきった完成度の高いカクテルだった。
準優勝は、デンマーク代表のバイジー。ヤコブを“穏”と表現するならば、彼女のスタイルは“躍”というべきか。常にゲストとの会話を楽しみながらも、手の動きは決して止まらず、ダイナミックにカクテルをつくっていく。エスプーマによる豊かなフォームで仕上げた「ニッカ カフェグレーン」のカクテルは、ウイスキーの深い味わいとしっかりした甘み、かすかな苦みが後味の心地よいアクセントになっていた。
2人は2018年の春、日本に招待される。余市蒸溜所と宮城峡蒸溜所を訪問し、ニッカのウイスキーづくりについてさらに学び、日本のバラエティー豊かな食文化を体験する機会を得る。もちろん、多くのバーも訪問するだろう。その際、ロジェリオがいる『Trench』 を訪ねて、「Omakaseカクテル」をオーダーし、逆にジャッジしてみるのもおもしろい。
「ニッカ・パーフェクト・サーヴ」は新たな展開へ。
今回、ヨーロッパの決勝大会がニューヨークで開催されたのには理由がある。実は、来年から「ニッカ・パーフェクト・サーヴ」はエリアを拡大し、ヨーロッパとアメリカのバーテンダーが競うコンテストとして展開する予定だ。ウイスキーやスピリッツのリーディングマーケットである欧米は、バーテンダーたちの互いの行き来も多い。今回、コンテストを終えたファイナリストのほとんどは、ニューヨークに数日間滞在し、さらなる研鑽のため何店ものバーを訪問したという。決勝を競い合ったファイナリスト同士に留まらず、さらにネットワークを広げて自国に戻ったに違いない。今後「ニッカ・パーフェクト・サーヴ」は、そんな彼ら彼女らが、バーテンダーとしての在り方を見つめ直し、さらなる高みを目指すための機会となっていくだろう。