お酒を飲む際には食べながら飲みましょう〜とよくいわれます。食べながら飲んだ場合、どのようなメリットがあるのでしょうか?実は、空腹のまま飲むのと食事をしながら飲むのとでは、飲んだ後の血液中のエタノール濃度は大きく変わってきます。
血液のデータをチェック!
実際に空腹のまま飲酒をするのと、軽食を食べながら飲酒をした場合に、血液中のエタノール濃度やアセトアルデヒド濃度がどのようになっていくのかを見てみましょう。
40〜50歳代の"お酒に弱いタイプ"の男性20名が、市販のビール(アルコール度数:5%)および焼酎甲類(アルコール度数:16%)を空腹の状態で飲んだ場合と軽食(460kcal)を食べながら飲んだ場合の血液中エタノール濃度の変化を調べてみました。(飲酒量は体重当り同じ量になるように、体重が60kgのヒトでビール460ml又は焼酎甲類150mlを飲んでいただきました。軽食は、チキンクリーム煮、クラッカー、プリンが1セットになっている試験用食品を用いました)(文献1)
データ1 軽食を食べながらビールを飲んだ後の血液中のエタノール濃度
左の図が焼酎甲類、右の図がビールを飲んだ場合の結果ですが、例え軽食であっても一緒に摂ることで、血液中のエタノール濃度が急激に上がっていくのをおさえることができ、すなわち急激な酔いの回りを軽減することができます。このような食事による恩恵は、ビールであっても焼酎であっても、お酒の酒類に関係なく受けられることができ、また、このような結果はお酒に強いタイプでも同様であることも確認しています。これらの結果を逆に見れば、食事を摂らずに空腹の状態でいきなりお酒を飲んだりした場合には、急激に血液中のエタノール濃度が上がってしまうといえます。
ここがポイント!
それでは、どうして食事を一緒に摂るとこんなに血液中のエタノール濃度が下がるのでしょうか?
胃の中にお酒だけが入っていった場合、胃からの吸収とともに速いスピードで腸管へ流れ込み、素早く吸収されることで急激に血液中のエタノール濃度が上がっていきます。一方、胃の中で食事成分とアルコールが一緒に存在した状態の場合では、胃から腸に流れていくスピードが緩やかになることが分かっています。(文献2)
そうすると、アルコールの吸収がゆっくりになり、血液中のアルコール濃度もゆっくりと上がっていくことになります。
データ2 軽食を食べながらビールを飲んだ後の血液中のアルコールの量
実際に、実験動物を使って、アルコールを食事成分とともに与えることで、胃の中にアルコールがどの程度残っているのかを調べてみました。下の図は、ラットに口からエタノールを投与し、30分後に胃、腸、血液中に残っているエタノールの量を調べてみた結果です。(文献3)
エタノールだけで行った場合では、30分後に胃の中に残っていたエタノールは投与した量の約9.5%のみで、すみやかに胃から腸に流れていき吸収されて肝臓で代謝されたと考えられます。一方、食事を液状化したカロリー液をエタノールと一緒に投与したラットでは、エタノールだけを与えたラットに比べて、30分後でも胃の中に約43%も留まっていました。
ここがポイント!
アルコールは肝臓で分解されることはよくご存じのことかと思いますが、実は肝臓だけでなく胃の中にもアルコールを分解する酵素(アルコール脱水素酵素)が存在しています。(文献4)
食事成分が一緒に存在することで、胃の中で長い時間留まることになり、胃の中で分解されるアルコールの量が増えて、結果的に身体の中に吸収されて入っていくアルコールの量が減ることになり、血液中のエタノール濃度が下がると考えられます。
かけつけ三杯という言葉がありますが、なるべく空腹のまま飲むのは避けて、少しでもお腹の中に食べ物がある状態で飲むことを心掛けましょう。
- (文献1)
- 大嶋俊二ら:適量飲酒における諸飲酒条件がアルコール代謝動態に及ぼす影響−酒類,ALDH2遺伝子多型ならびに食事の有無での比較−,日本アルコール・薬物医学会雑誌,46,357-367(2011)
- (文献2)
- Jian R et al.: Effect of ethanol ingestion on postprandial gastric emptying and secretion, biliopancreatic secretions, and duodenal absorption in man, Dig. Dis. Sci., 31, 604-614(1986)
- (文献3)
- 大嶋俊二ら:飲酒時の食事摂取がもたらす血中アルコール濃度およびAUCの低下は胃内滞留によるFirst Pass Metabolism亢進が関係する,アルコールと医学生物学,30,64-71(2011)
- (文献4)
- 原田勝二:アルコール代謝酵素の分類と多型−日本人における特異性,日本アルコール・薬物医学会雑誌,36,85-106(2001)
※使用したデータは全て日本医科大学とアサヒグループホールディングスとの共同研究によるものです。