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香りの謎に触れれば、ウイスキーはもっと楽しくなる。

ウイスキーは、香りの宇宙。

この香りは、何だろう。甘く誘う、熟した果実の香り。深い森に漂う、湿った苔の香り。夏の海に吹く風の香り。焼けたタイヤのような香り。ぱちぱちと爆ぜる、焚き火の香り・・・一杯のウイスキーの中には、無数の香りが潜んでいます。原料や樽、貯蔵庫の環境、熟成にかけた時間。ウイスキーが重ねてきたすべての経験がさまざまな香りとなって重なりあい、小さな宇宙をつくりあげているのです。その中には、科学では解明できない不思議な香りも含まれています。目を閉じて、無限の森羅万象に想いを馳せるように。遠い記憶の果てまで旅するように。ウイスキーの香りの謎を、探ってみませんか。

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1.香りの原点は、原料にある。

ウイスキーは、穀物からつくられます。トウモロコシや小麦、ライ麦などを原料とするのが「グレーンウイスキー」、大麦を原料とするのが「モルトウイスキー」です。大麦は、水に浸して発芽させてから使います。この発芽させた大麦を「モルト」と呼びます。モルトは熱風で乾燥させて保存しますが、その時に焚く燃料の煙は、香りをつくる重要な要素です。枯れたシダやコケなどが堆積してできるピート(草炭)を焚くと、そのスモーキーな香りがモルトに移ります。乾燥したモルトを糖化・醗酵させて、もろみ(醗酵液)をつくる過程では、酵母の力でウイスキーの豊かな香りのもとになる成分が生み出されます。もろみは蒸溜機で加熱され、蒸溜液となります。蒸溜によって香りのもとになる成分は凝縮されますが、できたての蒸溜液は刺激が強く荒々しい風味のまま。ウイスキーらしい香りと味わいを備えるには、樽の中で熟成させなければなりません。

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2.樽のストーリーが、香る。

樽は、できあがった蒸溜液を詰める前に内側に火を入れて焼き、焦がします。この工程を「チャー」と呼びます。チャーによって木の成分が活性化し、バニラのような甘い香りのもとになる成分が生まれるのです。新しい樽(新樽)をつくる場合もありますが、ウイスキーの熟成に使っていた樽を再利用することもありますし、シェリー酒やバーボンなど他の酒を貯蔵していた樽を使う場合もあります。他の酒を詰めていた樽を使うと、その酒の香りがウイスキーに移ります。シェリー樽なら果実のような華やかな香り、バーボン樽ならバーボン特有の甘い香り。ウイスキーの香りには、樽の歴史も刻まれているのです。樽に使う木の種類によっても、香りは変わります。新樽の場合は、使っている木の影響がより強く現れます。よく使われるのは、ホワイトオーク。同じホワイトオークでも、産地によって香りが微妙に違います。

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3.時が、香りに魔法をかける。

樽の中で長い時を過ごすうちに、アルコール臭や雑味などは樽の隙間から自然に放出されていきます。水分も少しずつ蒸発していくため、ウイスキーの量は1年に2〜3パーセントずつ減っていきます。これを「天使の分け前(エンジェルズシェア)」と呼びます。天使に少し分けてあげるとウイスキーはおいしくなる、ということでしょうか。さらに熟成を重ねていくと、樽から溶け出す成分やアルコールなどが化学変化し、果実や花のように華やかな香りが生まれます。味わいもまろやかに、色も深い琥珀色に変わっていきます。樽が置かれている環境などによって、熟成にかかる年数はさまざまです。熟成が進むとともに、ウイスキーはさらに深く豊かな香りと味わいを身につけていきますが、木の香りや渋味が強くなり過ぎてしまうこともあります。おいしさのためには、ウイスキーを樽から出すタイミングを見極めることも大切なのです。

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4.風の味わい、風の香り。

ウイスキーの香りや味わいは、生まれ育った場所によっても異なります。蒸溜所のある土地の気候風土が、大きく影響するのです。ニッカウヰスキー余市蒸溜所のウイスキーは、かすかに潮の香りがすると言われます。科学的に分析しても潮の成分は見つかりませんが、日本海を臨む余市で熟成を重ねたウイスキーに海風の香りがついても、不思議ではないのかもしれません。同じように、緑豊かな山あいにある宮城峡蒸溜所のウイスキーには、樹々が生み出す清らかな空気のように、さわやかな余韻が感じられます。ニッカウヰスキー創業者 竹鶴政孝は「我々は風の味のウイスキーをつくらなければならない」という言葉を遺しました。香りについても、つくられた土地の特徴が個性として現れるからこそ、ウイスキーはおもしろく、奥深い。さまざまな蒸溜所のウイスキーを、旅するように楽しんでみてください。