ニュースリリース
アサヒビール株式会社のニュースリリース
2012年10月19日
アサヒビール株式会社
平成24年度第64回日本生物工学会大会 第21回生物工学技術賞 受賞
アサヒビール株式会社
平成24年度第64回日本生物工学会大会 第21回生物工学技術賞 受賞
新規液体麹の開発と発酵飲食品への展開
〜様々な種類の酵素を大量に生産する液体麹を生産することに成功〜
アサヒビール株式会社(本社 東京、社長 小路明善)の醸造研究所は、新規液体麹の開発と新規液体麹を活用した発酵食品への展開技術を確立してきました。本研究成果が認められ、10月23日(火)から26日(金)に神戸国際会議場(神戸市中央区)にて開催される平成24年度第64回日本生物工学会大会にて第21回生物工学技術賞を受賞することとなりました。10月23日(火)に授賞式が行われるとともに、本研究内容を本大会の受賞記念講演にて発表します。
生物工学技術賞は公益社団法人日本生物工学会より、生物工学に関連する工業の技術開発に顕著に貢献したと認められた会員に与えられるものです。
■ 研究成果について
【背景】
- 麹菌は焼酎や日本酒、醤油や味噌などの食品の製造に用いられる微生物。麹菌が生産する酵素の働きを酒類や食品などの生産に利用している。
- 麹菌の培養方法には、白米などの穀類原料の表面で麹菌を培養させる固体培養法と、水に培地(餌)およびその他の栄養源を添加し、その中で麹菌を増殖させる液体培養法とがある。
- 固体培養法は酒類の醸造などに必要な、たくさんの種類の酵素を生産できるものの、大規模生産や培養制御の安定性に課題があった。
- 液体培養法は固体培養法に比べて大規模生産や品質管理が比較的容易であるものの、アミラーゼやセルラーゼといった酵素の生産性が低下することが知られていた。
- そこで、大規模で安定した品質の麹菌を培養するために、固体培養法以上の酵素の生産を可能とする新しい液体培養法の確立を目指してきた。
【研究成果】
- 従来法とは異なり、玄大麦を粒のまま用いるなど、麹菌にとっては分解しにくい培地(餌)を使用する新しい液体培養法を開発。液体麹で生産することが不可能と考えられていた、たくさんの種類の酵素を大量に生産することができる方法を世界で初めて確立した。
- 玄大麦や籾殻付米、豆類やイモ類など、様々な原料を麹菌が分解しにくい状態で使用する新しい培養法を用いて麹菌を培養。様々な酵素を従来の液体麹よりも多く生産することを確認した。とくに、従来の液体培養法で培養した白麹菌・黒麹菌では生産することができないと考えられていた耐酸性α−アミラーゼを、新しい液体培養法を用いて大量に生産することに成功した。
- 新しい液体培養法で製造した液体麹(以下、新規液体麹)を、焼酎や醤油など幅広い発酵飲食品の製造に用いることができた。実際に焼酎を製造している規模での新規液体麹の利用にも成功し、新規液体麹を用いた『本格麦焼酎かのか』を2007年7月に発売した。
- 新規液体麹を用いることで原料を加熱処理せずに発酵することができることを確認した。
■ 試験結果について
<新しい液体培養法で玄大麦を粒のまま使って培養した液体麹が生産する酵素活性>
- 玄大麦を粒のまま用いて製造した新規液体麹は従来の液体培養法で培養した液体麹に比べて、でんぷんを分解するグルコアミラーゼや耐酸性α−アミラーゼ、たんぱく質を分解する酸性プロテアーゼ、繊維質を分解するキシラナーゼなど様々な酵素を著しく多く生産する。
<新しい液体培養法で様々な原料から培養した液体麹が生産する2種類の酵素活性比較>
- 様々な種類の穀類を用いて培養した新規液体麹は、大量の酵素を生産することを確認した。
- 新規液体麹は、使用する原料由来の香りを有することがわかった。また、それらの新規液体麹を使って焼酎を製造したところ、新規液体麹培養に使った原料特有の香りが焼酎にも含まれることを確認した。
<新しい液体培養法で培養した液体麹を使った加熱処理しない発酵試験結果>
- 加熱せずに発酵させることができればエネルギーの削減につながることから、米粉、キャッサバ、大麦糠を加熱処理せずに発酵させる試験を実施。
- 米粉については焼酎工場などで実際に使用されている規模である30klで加熱処理せずに発酵させることに成功した。
- 非常に分解しにくい原料であるキャッサバでも1.61klの規模で発酵試験を行い、加熱処理せずに発酵させることに成功した。キャッサバを用いて加熱せずに発酵させた事例としては、試験管レベルの報告しかなく、この結果は現行では最高水準の成績であるといえる。
- 玄麦を使いやすく加工する際に発生する副産物である大麦糠は、でんぷんの含有量が少ないため固形分40%以上の高濃度で加熱せずに発酵させる試験を実施。でんぷんの含有量が少ない原料でも、加熱せずに発酵させることに成功した。
アサヒビール株式会社は、本研究の成果を酒類・食品の新たな提案につなげていくことを目指すとともに、今後も新しい価値を創造する領域の研究に、継続的に取り組んでまいります。