平成17年3月17日 千葉大学大学院医学研究院 教授 野田公俊 アサヒビール株式会社 「ホップ・ポリフェノール」が、ピロリ菌による疾病発症リスクを低減 千葉大学大学院医学研究院‐アサヒビール(株)R&D本部の共同研究で有効性を確認 第78回日本細菌学会総会で発表、機能性食品としての開発を進める |
アサヒビール株式会社(本社 東京、社長 池田弘一)と千葉大学大学院医学研究院・野田公俊教授(病原分子制御学)のグループは、共同研究により、ビール原料のホップから抽出される天然素材「ホップ・ポリフェノール」が、ヘリコバクター・ピロリ菌の産生する空胞化毒素を強力に中和、無毒化することを確認しました。この研究成果は、4月4日(月)〜6日(水)に東京都内で開催される「第78回日本細菌学会総会」において、野田公俊教授とアサヒビール(株)R&D本部未来技術研究所、長崎大学熱帯医学研究所病原分子機能解析分野・平山壽哉教授(病原細菌学)により発表されます。 ヘリコバクター・ピロリ菌は、らせん状の形態を有するグラム陰性桿(かん)菌で、急性・慢性胃炎、胃潰瘍などの消化器疾患の発症に深く関与することが明らかとなっています。特に、ピロリ菌が産出する空胞化毒素は、胃の上皮細胞に作用して障害を引き起こし、炎症をもたらす病原因子であることが知られています。 今回の研究では、培養したヒト由来AZ-521細胞に、空胞化毒素とホップ・ポリフェノールを添加して細胞の空胞化の度合を観察しました。その結果、あわせて添加したホップ・ポリフェノールの濃度に依存して、空胞化毒素が無毒化され細胞の空胞化が抑制されることが確認できました。さらに、4週齢のマウスに空胞化毒素とホップ・ポリフェノールを経口投与し、48時間後に胃を摘出し顕微鏡により傷害の程度を観察しました。この結果、空胞化毒素のみを投与されたマウス群に比べ、ホップ・ポリフェノールをあわせて投与された群では、有意に胃の傷害が抑制されたことが確認できました。 今回の共同研究で、食品素材であるホップ・ポリフェノールに極めて強い空胞化毒素の毒性中和効果があることを確認できたことにより、今後、ヒトへの有効性の検証を行う予定です。将来的にはホップ・ポリフェノールを配合した食品の摂取により、消化器疾患の発症を予防する方法の確立に期待がもたれます。 千葉大学とアサヒビール(株)R&D本部の研究グループは、今回の共同研究の成果をもとに、独立行政法人科学技術振興機構の平成16年度第2回委託開発事業に「ピロリ菌による疾病リスクを低減するホップ由来機能性ポリフェノールの開発」案件を応募し、このたび採択を受けました。今後、同事業による支援のもと、ホップ・ポリフェノールを配合した食品の日常的な摂取による消化器疾患の発症予防効果確認を進め、機能の明確な食品の開発を目指します。 アサヒビール・グループでは、酒類事業で培われた原料・素材研究を基盤として、ホップ・ポリフェノールをはじめとする各種天然素材の健康への機能やそのメカニズムの解明、さらに機能性素材としての応用を目指した研究活動を進めています。 【研究概要】 試験は、空胞化毒素が結合するレセプターをもつヒト由来のAZ-521細胞(※1)に、一定濃度の空胞化毒素と各種濃度のホップ・ポリフェノール溶液を添加し、37℃で8時間培養し、空胞化毒素による細胞の空胞化の度合を評価しました。 毒素によってもたらされる細胞の空胞化の度合は、赤色色素(ニュートラルレッド)溶液の空胞への取り込みによる色素沈着濃度によって評価しました。 その結果、図1のように、添加したホップ・ポリフェノールの濃度に依存して、細胞の空胞化が抑制されたことが確認できました。10μg/mlのホップ・ポリフェノール溶液をあわせて添加した場合は、ホップ・ポリフェノールを全く加えなかった場合に比べ細胞の空胞化が10分の1以下となり、同素材が極めて高い、空胞化毒素の中和・無毒化効果をもつことがわかりました。
図1.細胞毒性試験(ホップ・ポリフェノールの毒素中和効果) さらに、ホップ・ポリフェノールによる毒素中和効果の発現メカニズムを探るため、上記試験でもちいたAZ-521細胞に、各種濃度の空胞化毒素と一定濃度のホップ・ポリフェノール溶液を添加し、37℃で4時間培養した後、細胞表面に接着した空胞化毒素の量を抗体染色手法により測定しました。 これにより、ホップ・ポリフェノールによる空胞化毒素の中和効果は、ホップ・ポリフェノールが空胞化毒素と強固に結合することにより、毒素の細胞表面への接着を抑制することで発現するものと考えられます。 図2.空胞化毒素と細胞との接着量 2.マウスによる胃傷害試験 以上 |
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