平成15年2月18日 |
『アサヒビール芸術賞』を創設、第1回授賞者を決定ジャンルや形態に こだわらず、芸術と社会の橋渡しを推進する対象を表彰 社員が選考に参加、企業として授賞者の活動を支援する賞に |
アサヒビール株式会社 アサヒビール芸術文化財団 |
アサヒビール芸術文化財団(所在地 東京、理事長 福地茂雄)は、斬新な芸術活動の発掘と支援を行うこれまでにない新たな芸術賞として、「アサヒビール芸術賞」を創設しました。芸術と社会との橋渡しを推進することを通じて、未来に向けた芸術文化の発展に寄与することを目的に、ジャンルや個人・団体・プロジェクトといった形態を問わない選考対象から、社員の参加するユニークな選考方式により授賞者を決定します。 「アサヒビール芸術賞」は、芸術と社会の橋渡しを、一般市民の視点から推進するため、芸術の専門家である3名の推薦委員によって推薦された30の候補対象の中から、アサヒビール社員が選考し、授賞後も支援を続ける手法を導入しました。全国の社員の中から約30名に審査委員を委嘱し、社員審査委員は、約半年間に渡って、実際に公演や展示等の活動の視察を重ね、最終的な授賞者を選考します。また、授賞後も引き続き、社員審査員を中心にアサヒビール社員で幅広くその活動を注視し、応援を続けていきます。
第1回目となる2003年度の授賞者は、下記の4件に決定しました。 「アサヒビール芸術賞」授賞者には、副賞として、1件につき200万円の活動支援金を授与します。本芸術賞は、受賞後の活動支援に主眼を置く賞であることから、今後の芸術活動の資金援助を目的とした副賞としています。授賞者には、今後どのような活動に支援金を活用していくかをご報告いただき、社員審査員を中心としたアサヒビール社員は、この活動を応援していきます。
今回の「アサヒビール芸術賞」の創設も、この考えに基づくものであり、ジャンルを超えた斬新な芸術活動の可能性を発掘し、あわせて、一般市民に理解されにくいといわれている新しい芸術活動の社会化を支援するものです。今後も、毎年3件程度の授賞者を決定し、支援を続けていきます。
野村誠とその仲間たち 異色の音楽家(作曲家/ピアニスト)野村誠を中心に、従来の「音楽」の枠にまったくとらわれない独創的で、かつ社会的に開かれた表現活動を続けている。 老人ホームで入居者と共同した作曲や、小学校等でのワークショップなどを含めて、既存の概念にとらわれない幅広い活動は、多方面から熱心な注目を集めてきている。 したがって、ここにいう「その仲間たち」とは、野村誠とともに作業をしたすべての人々である。 「アサヒビール・ロビーコンサート」第50回記念でのワークショップによる委嘱新作初演など、アサヒビールとのコラボレーションも多数。 <選考理由> 野村誠氏は、書斎にこもって孤独に作曲するイメージを脱却し、コミュニケーションの成立する場、すなわち他者との関わりのある場で、その場にいる一般の人々と共同で作曲している。その際、野村誠は、その独創的で高いクオリティーを妥協することなく維持しながら、同時に音楽の専門家ではない人々の、「自己表現」の創造的な可能性を巧みに引き出し、音づくりに活用していく。その結果、素人の創造性を社会化しつつ、質の高い音楽をつくり上げるという、稀有な成功を築き上げている。 芸術と社会の橋渡しを重視する、アサヒビールのメセナ活動の視点から、是非応援していきたい活動である。 愛知県文化情報センター 「愛知芸術文化センター」内にある、愛知県に直属し、芸術文化プログラムを企画運営する機関。現代舞踊、実験音楽、民族音楽、実験映像などの、一般的な認知が十分とはいえないジャンルに関する企画を93年より継続実施している。また、プログラム毎に、高い見識を示す報告書を作成しており、情報の広がりの点でも、資料価値の点でも、質の高いアウトリーチ活動をおこなっている。 <選考理由> 自治体の設立した文化施設は、「ハコモノ行政」の批判に見られるようなソフト不足が一般的な課題である中にあって、卓越したソフト開発と、その幅広い展開は高く評価できる。芸術の各分野における先駆的な活動に積極的に取り組んでいることは、自治体の取り組む活動としては、極めて貴重で特筆に価する。 先駆的な芸術活動の紹介を通して、未来の文化に向けた創造活動の支援とともに、公演はもとより、セミナーやワークショップなどを含む一般の市民に向けた幅広いアウトリーチ活動による、アートと社会の繋ぎ手としての役割も高く評価でき、アサヒビールのメセナ活動の視点とも、深く共鳴できる。 特定非営利活動法人 芸術家と子どもたち 芸術家を小中学校に派遣して、教員と協力してワークショップ型の授業を行うプログラムを実施しているNPO。授業内容は、芸術家と当該学校の先生による打合わせ、また芸術家と子供たちとのコラボレーションによって決定しており、双方向性の高いプログラムである。2000年7月よりスタートし、年間30校程度で実施されている。参加する芸術家は、音楽、美術、ダンス等、ジャンルを超えた気鋭の先駆的な活動をしている人の中から選定している。 <選考理由> 一般的に学校における芸術の提供は、「鑑賞教育」に典型的な、「演者」と「観客」を分断した「芸術作品」の一方通行の提供であるが、ここでは、ワークショップ型のプログラムにより、気鋭の芸術家と子ども達の間に、緊張感と親密性のある双方向の関係が生み出され、子供たちの芸術創造体験として、高く評価できる。芸術との触れ合いは、生の感性が息づいている子供の頃が重要で、子供たちの人間的な成長にとっても芸術は不可欠であり、本企画は、直接専門の芸術家を学校現場に派遣し、子供たちに創造的な体験ができる機会を提供する先駆的な活動として、高く評価できる。 新しい市民社会の台頭とともに、芸術の社会化にも新しい手法が必要であり、いち早くNPOとして活動を推進している点も、アサヒビールのめざすNPO支援の観点に合致する。 内藤礼 インスタレーション・アーティスト(造形芸術家)。繊細で微細なオブジェを薄い布のテントの中にちりばめ、静謐の空間を生み出す。空間に入ることを許されるのは、一度に一人だけで、その作品を鑑賞するには、日時を予約し、靴を脱いでたった一人で入らなければならない。一般に美術の鑑賞は、いつでもいけるところに特色があったが、内藤礼はその仕組みをすっかり変えてしまった。演劇や音楽の鑑賞のように、日時が指定されるのである。しかも、観客はたった一人だという点で、舞台芸術とも違っている。かすかな光と、かすかな音で外界とつながってはいるが、ほの暗い閉ざされた空間で小さなオブジェをじっくり眺めると、思い出と悲しみの世界から、新たな生命が誕生し、そのかけがえのなさが伝わってくるようだ。 <選考理由> 芸術は表現活動である以上、できるだけ多くの人々に理解を求めようとするものであるが、内藤礼は、わざわざ作品に触れることのできる人数を制限してしまっている。しかし、一度我々がその作品に触れることができると、やわらかく、かすかで、繊細で、静かな世界が、圧倒的な力を秘めて、ほんとうに人間にとって大切なものは何かを知ることができる。 かすかに、ささやかに、ゆっくりと、静かに静かに応援しつづけていきたい人である。
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